東京高等裁判所 昭和38年(ネ)1262号 判決 1964年4月23日
理由
控訴人が、金額金二十万七千円、満期昭和三十七年九月五日、支払地及び振出地各東京都世田谷区、支払場所株式会社大和銀行世田谷支店、振出日及び受取人白地の約束手形一通を訴外三幸建設株式会社に振り出したことは、当事者間に争がない。
成立に争のない甲第一号証、弁論の全趣旨によつてその全部の成立を認めることのできる甲第五号証と、当審での被控訴会社代表者本人尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。
被控訴人は、昭和三十七年五月十四日三幸建設株式会社から右約束手形の譲渡を受け、補充権に基づき振出日を昭和三十七年八月二十日、受取人を被控訴人と補充した上、同年九月四日頃、取立委任とは明記しないが、実質はその趣旨で、これを株式会社東京都民銀行に裏書譲渡し、同銀行は、右手形を満期である同月五日支払場所に支払のため呈示したが、支払を拒絶されたため、被控訴人は、同日取立委任を解除する趣旨で右手形の返還を受けてその後これを所持し、本件控訴提起後右銀行に対する裏書の被裏書人の氏名のみを抹消した。
右認定に反する証拠はない。
よつて、被控訴人は控訴人に対し右手形の正当な所持人として右手形に基き右手形金の請求をなし得るものであるといわなければならない。
控訴人は、右約束手形については除権判決を得たから被控訴人の請求は失当であると主張するので、判断する。
控訴人が昭和三十八年二月二十六日に本件約束手形について除権判決を得たことは、当事者間に争がない。しかし、除権判決による証券の無効宣言は、判決当時その証券を所持している者に対しては、除権判決後は証券を所持しているというだけの事実に基づいて手形上の権利を主張することができないという効果を生ずるにとどまり、除権判決前に証券の所持人としてすでに取得していた権利を失わせるものではないと解すべきである。昭和三十八年二月二十六日になされた本件除権判決は、その前である昭和三十七年九月五日に取得された被控訴人の手形所持人としての権利にはなんら影響を及ぼすものではない。したがつて、控訴人の右主張は、採用することができない。
したがつて、控訴人に対し右約束手形金及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和三十八年三月三十一日から完済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める被控訴人の本訴請求は、正当として認容すべきである。